SANARI PATENT ナノテクの産学連携

Problems Concerning University IP Headquarters: ナノテクノロジ−・材料分野に関する産学連携の諸課題
弁理士 佐成 重範 sanaripat@nifty.com Web検索SANARI PATENT
別サイト http://patentsanari.cocolog-nifty.com/blog/ 2007.11.18 次世代ネットワ−クのコンセプト

  ナノテクノロジ−・材料分野の知財政策について、内閣知財戦略本部の担当プロジェクトチ−ムが、その課題を摘出しているので、これを要約し考察する。

1. 大学の知的財産体制整備
(要約) TLO数は44に達し、大学知財本部は44大学に設置された。平成18度に、企業・大学の共同研究は1万4000件、受託研究は1万8000件を超えた。
特許出願件数、ロイヤリティ収入も増加し、赤字TLOが減少して、2005年度には、41TLOのうち29が黒字になった。
(考察) 全国大学数は740を超えるから、TLOや大学知財本部の設置率
は、6%弱にとどまる。しかし、残余の94%強の大学の教授等が知財活動を企業と密着して行っている例も多い。それらの業績も強調すべきである。

2.基礎研究段階の特許戦略
(要約)大学の特許出願活動のうちには、出願すること自体を目的とするもの、質が伴わないもの、対外国出願等の経費に難渋するもの、などがある。
 これら難渋の背景として、次の事項がある。
(2)-1 ナノテクノロジ−・材料分野の特性として、製品化への道筋が全く見えない状態で、基本特許となり得るものは権利化しなければならない。
(2)-2 研究成果選別の人材・体制が未整備である。
(2)-3 研究資金制度において、特許出願を採択有利要件とするものがある。
(2)-4 知的財産イコ−ル特許という意識で、出願件数の増加が自己目的化し、質不問の傾向もある。
(考察) わが国の特許付与要件としての「産業上利用可能性」が、事業化可能性とは異なり、「実施可能性」程度の要件であることが一般に認識されていない。特許権を取得すれば収入を伴うという意識が学府や一般人には残存している。これが休眠特許発生の一因である。

3. 産学連携
 (要約) (3)-1 共同研究の拡大: 大学の法人化により産学関係が多様化し、ナノテクノロジ−・材料分野においては、大学内に企業との共同研究室を設けるものもある。応用と基礎科学の双方から、両者の結合への双方向の流れを活性化することが必要である。
(3)-2 産学の立場の相違: 企業側からは大学の行動に対し、「ビジネス常識逸脱の要求」、「契約上の柔軟性の欠如」などの不満がある。大学側からは企業の行動に対し、「研究内容に見合わない知財の確保に固執し、契約が円滑に進まない」、「企業の立場のみ主張し、大学の立場を尊重しない」、「企業内稟議に時間を要し、共同出願が捗らない」などの不満がある。
(考察)共同研究の成果が収益を発生しない基礎研究について、大学が対価を望むこと、企業が共同特許権の不自由性を免れたいことなど、立場と利害の相克を具体的に解決する必要がある。

4. 短期的成果への傾斜
 (要約)企業側から見た大学の問題の一つは、研究資金確保のため外部資金獲得に注力して短期的成果を求め、または公募研究テ−マに合わせて研究するなど、出口指向のテ−マに集中して、基礎研究が疎になることである。
 (考察)企業が「基礎から製品まで」の一貫自前主義を「基礎は大学、製品は自社」と転換する傾向が強まるとすれば、企業から大学への対価支払いは可能か、困難であるとすれば、大学の収入の方途を考えないと、TLOの赤字が再増加する。 
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