SANARI PATENT ライセンスの諸形態

Facilitating Licensing Activities by Companies: 多様なライセンス戦略による知財権の活用と競争力強化・事実上標準化・イノベ−ションの促進
弁理士 佐成 重範 sanaripat@nifty.com Web検索SANARI PATENT
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  知的財産の開発投資資金は、自社活用・ライセンス・権利売却の3態様で回収され再投資されるが、知財面での企業間連携強化が競争力強化・事実上標準化の達成上、不可欠であり、イノベ−ション促進政策としても重要である。ここにはライセンスの諸態様を、内閣知財計画や公取新指針(関連記事SANARI PATENT07-10-1)の記述をベ−スにして考察する。

1. パテントプール
1-1  特定の技術について特許権を有する複数の者が、それぞれが有する特許権、または、「その特許権についてライセンスする権利」を、「一定の企業体や組織体」に集中し、パテントプールの構成員等がその「一定の企業体や組織体」を通じて必要なライセンスを受ける契約態様である。
1-2  上記の「組織体」の形態は多様で、その組織を新たに設立する場合と、既存の組織を利用する場合とがある。
1-3  パテントプールは、事業活動に必要な技術の効率的な利用に資するものであるが、パテントプールを形成している事業者が、新規参入者や特定の既存事業者に対するライセンスを、合理的理由なく拒絶することにより、その技術を使わせないようにする行為は、他の事業者の事業活動を排除する行為に該当する場合があると考えられる。
1-4  また、特定の技術市場において、代替関係にある技術に権利を有する者同士が、それぞれ有する権利について、パテントプールを通じてライセンスをすることとし、その際のライセンス条件について共同で取り決める行為は、それがその技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、「不当な取引制限」に該当すると考えられる。
1-5  特定の製品市場において競争関係に立つ事業者が、製品を供給するために必要な技術を相互に利用するためにパテントプールを形成し、他の事業者に対するライセンスはこのパテントプールを通じてのみ行うこととしている場合に、その特定製品市場への新規参入者や員外の既存事業者に対し合理的理由なく拒絶する行為は、「共同して新規参入を阻害する、または共同して員外既存事業者の事業活動を困難にするもの」であり、その製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当すると考えられる。(SANARI PATENT 注:パテントプールが世上で著名となった契機は、パチスロメ―カのパテントプール問題であったが、問題の実質は、加盟メ―カ間のロイヤリティ配分の不平等に関する員内不和であったと解する。パテントプールについては、、対象権利とロイヤリティ配分に関する明確な協定が不可欠である。)

2. マルチプルライセンス
2-1 特定の技術を、複数の事業者にライセンスする契約態様である。
2-2 マルチプルライセンスにおいて、ライセンスサ−および複数のライセンシ−が共通の制限を受けるとの認識のもとに、その技術の利用範囲、その技術による製品の販売価格・数量・販売先を制限する行為は、これら事業者の事業活動の相互拘束に該当し、その製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当すると考えられる。
2-3 また、同様の認識のもとに、その技術の改良技術について、ライセンスする相手方や、代替技術の採用等を制限する行為も、技術の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当すると考えられる。

3. クロスライセンス
3-1  技術に権利を有する複数の者が、それぞれの権利を相互にライセンスする契約態様である。
3-2  クロスライセンスに関与する事業者が少数であっても、それらの事業者が
特定の製品市場において占める合算シェアが高い場合に、その製品の対価・数量・供給先等について共同で取り決める行為や、他の事業者へのライセンスを行わないことを共同で取り決める行為は、その製品の取引分野における競争を実質的に制限する場合には、不当な取引制限に該当すると考えられる。

4. 包括ライセンス契約
   ライセンス対象の特許権が複数であるが、包括してロイヤリティを契約する契約態様である。
5. 包括クロスライセンス契約
包括ライセンス契約を相互に、クロスして締結する契約態様であるが、ロイヤリティを一括相殺する場合と、特許権の価値評価に基づいて差額を一方の契約当事者が支払う場合とがある。
6. サブライセンス
    ライセンスサ−がライセンシ−に対し、そのサブライセンス先を制限する行為は、原則として不公正な取引方法に該当しないと考えられる。
7. 一括ライセンス
ライセンスサ−がライセンシ−に対して、ライセンシ−が求める技術以外の技術についても、一括してライセンスを受ける義務を課する行為は、ライセンシ−が求める技術の効用を保証するため必要であるなど、合理性が認められない場合には、不公正な取引方法に該当すると考えられる。
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8. マルチプルライセンス、ライセンス、ロイヤリティ、クロスライセンス、包括ライセンス、包括クロスライセンス、不公正取引